サンフランシスコBARTでも軌道回路異常があった!

 ワシントンDC地下鉄事故の続報、というか関連情報です。
 同地下鉄とほぼ同じ時期に建設され、ほぼ同様のシステムを使っているサンフランシスコの高速鉄道BART(Bay Area Rapid Transit)の開業時に、今回ワシントンの地下鉄事故現場付近で発生したような軌道回路の異常が頻繁に起きていた、と7月7日付ワシントンポストが報じています。
(参考=ワシントンポスト。この記事は特ダネのようで無料ユーザー登録をしないと見れません。記事タイトルは「Sister Transit System Took Steps to Counter Hazard」)

 BART(なんと日本語ページあり)営団6000系が前面デザインをパクッたとして有名*1なサンフランシスコ湾岸地区の高速鉄道。1972年に開業し、現在は5ルート約150kmの路線網があります。開業時から乗務員添乗の完全自動運転システムを導入しており、初期車はワシントンDCの最古参、1000系と同じRohr製です(BARTが千代田線6000なら、ワシントン地下鉄は小田急9000ですね)。私が幼少期に読んだ電車の本なんかだと「がいこくのちかてつ」といえば必ず出てくる「未来の地下鉄」でした。

 ワシントンDC地下鉄事故では、現場付近の軌道回路に事故数日前から異常があり、列車の在線検知ができないことが度々あったと既に報じられていますが(7月3日付参照)、今回の記事によると、ほぼ同様の事象がBARTの開業時にも頻繁に発生しており、72年には本来なら減速指令が出るはずの場所で加速してしまい、留置線に突っ込むという事故があったのだそうです。この事故はBARTの歴史について書かれたアメリカ版wikipediaの「Incidents and accidents」の項目の一番最初に載っているものと思われます。

 この事故を受け、BARTは軌道回路による列車検知システムのほかに、バックアップシステムとして「Sequential Occupancy Release System」を設けたが、ワシントン地下鉄にはこれがなかった…というのが(超端折った)記事の要旨です。
 この「Sequential Occupancy Release System」(略称SORS)はどういうシステムかというと、いわゆる「チェックイン・チェックアウト方式」を指しているようです。
(参考=米プリンストン大学の論文か何か(pdf))
 「チェックイン・チェックアウト方式」というのは、列車がその区間に「いるかどうか」ではなく、「入った(チェックイン)」「出た(チェックアウト)」を確認するやり方です。たとえば列車の先頭と最後尾に発信機を積み、区間の入口と出口には検知装置を設置しておいて、先頭車が入口に入ったら「チェックイン」→(区間に進入した=在線)→最後尾が出口を通過したら「チェックアウト」(区間から抜けた)、と判別するという仕組みです。
 要はBARTは軌道回路とは別系統のバックアップ・システムを持っているわけですね。軌道回路に異常があっても、別のシステムがあれば防げたのでは…というのは、軌道回路の問題が事故原因として有力視されている中、確かに頷ける指摘でしょう。ちなみに、ワシントン地下鉄事故の突っ込んだ方の車両の車載コンピューターは、同区間の最高速度59マイル(約94km/h)を指示していたと見られているようです。

 …というわけでわざわざユーザー登録して見てみたらそれほどの話ではなかったんですが、興味のある方は見てみてください。

 しかし、軌道回路の異常ってそんなに発生するものなんでしょうか。京急が先頭電動台車に拘っているのは軌道回路の動作を確実にするため、と言われていますが、日本国内でも多少は起きているんでしょうか?


 私はこの事故をけっこう関心を持って(というと不謹慎かも)見ているのですが、それはなんといってもこれまで「安全」と考えられ、私自身もそう思っていた自動運転列車の事故だからです。列車事故があるとすぐ「ATSはどうなっていたのか」とTVのコメンテーターなんかも言い出しますが、それはやっぱり「ATSはバックアップシステムとして(一応は)信頼できる」という前提があるからですよね。この事故は、今まで確実だと考えられてきた「最後の砦」が実は脆いものだったということをさらけ出してしまうのかもしれません。もちろんアメリカと日本ではシステムが違うでしょうが、だからといって「アメリカは遅れている」で済ませてしまっていいのか?と思います*2。何しろ世界トップレベルの技術力・安全性を誇るはずの日本の鉄道が、福知山線脱線事故のような「テクノロジーでほぼ確実に防げる」はずの事故を起こしてしまったのだから。

*1:ついでにいうと、イタリア・ナポリCircumvesvianaのETR001も絶対BARTのパクリだと思う

*2:まあメディアに出ないだけで、専門家や関係機関の人々はいろいろ研究されてるんでしょうが