JR東海会長、アメリカで新幹線売り込み

 18日付で書いた内容が実現しました。
 JR東海葛西敬之会長が29日、アメリカ・ワシントンでラフード米運輸長官と会談、オバマ政権の高速鉄道構想に関して日本の新幹線技術を売り込んだ。
(参考=47News

 オバマ大統領が発表した高速鉄道構想は、新たな高速交通の整備によって石油消費の削減、地球温暖化防止のほか、渋滞・空港の混雑抑制をも狙ったもので、今年2月に可決された総額7870億ドル(約73兆円)の景気対策法案に含まれる初期費用80億ドルのほか、今後5年間に毎年10億ドルを投資する計画になっています。
 計画されているのは10地区(10 Corridors)。この構想は決して「アメリカ大陸の各地を高速鉄道で結ぶ」のが目的ではなく、全米の各地方ごとに周辺都市を結ぶ高速鉄道ネットワークの構築が目的です。東海岸はほぼ南北に結ばれる形となっていますが、それ以外は各地域で独立したネットワークを形成しています。路線延長はそれぞれ100〜600マイル(160〜960km)程度。米運輸省は100マイル以下は近郊鉄道と車、600マイル以上は飛行機が適しており、高速鉄道の威力がもっとも発揮できるのはこの範囲と考えているようです。
(参考=米運輸省発表の高速鉄道計画図(pdf))
 路線については新規建設、既存ルート改良の双方が考えられています。
 最高速度については180〜240km/h程度が考えられているようで、資料にある米運輸省高速鉄道の定義では、最高速度240km/h程度で300-960kmの距離を結ぶのが「HSR(High-Speed Rail)Express」、最高速度180-240km/h程度で160-800kmの距離を結ぶのが「HSR Regional」となっています。Amtrakの「Acela Express」と同程度といえるでしょう。
(参考=米運輸省の高速鉄道資料(pdf))


 葛西会長はこの構想に関し「N700系が世界の高速鉄道の中でアメリカに一番ふさわしい」として、車両やインフラなどを含めたシステムとしての導入を検討するよう求めたとのことです。

 N700系というのは、東海道・山陽新幹線、中でも東海道新幹線に特化した車両といえるでしょう。ATCと連動した車体傾斜システム、騒音や空気抵抗、トンネル微気圧波低減のための特殊な先頭部形状や屋根に段差のある先頭車etc.と、高速鉄道としては比較的カーブが多く、住宅密集地を走る路線での最適解を求めた結果生み出された車両だと思います。先日も乗りましたが、居住性はTGVを遥かにしのぐでしょうし、車内の快適さではひけを取らないであろうICE3やETR500と比べても、シートのリクライニングやテーブルの使いやすさといった機能性、細かな部分の快適性(窓枠にある空調吹き出し口とかホント芸が細かい)ではやっぱり上を行っていると感じます。機能性や居住性はもちろん、環境性能の観点からも間違いなく世界最高水準の高速列車でしょう。

 ただ、特定のシステムに特化して造られたモノというのは、汎用性に欠けるというか、異なる文化では特に求められていない部分が多いかもしれないという気もします。アメリカでは騒音対策やトンネル微気圧波対策は日本ほど考慮されないかもしれません。実際、新幹線よりトンネル断面積の大きい台湾高速鉄道では、700系とほぼ同じ700Tが300km/hで走っても問題ないわけです。
 逆に、汎用性が受け入れられたとされる例では、「ペンドリーノ」に代表されるイタリア・フィアット(現アルストム)の振り子システムが思い当たります。これはヨーロッパ各国の鉄道で使われていますが、日本の制御式振り子とは異なり、車両に搭載したジャイロによって遠心力を検知して車体を傾斜させるシステムです。この方式は基本的に車両だけで完結しているので、地上設備の整備があまり必要ない点が各国の鉄道に受けた理由だそうですが、正直言って乗り心地は日本の制御式振り子システムのほうが上でしょう。でも、費用を抑えて従来の設備で高速化が図れる点が受けたわけですね。欧州の大メーカーというのは、そういう「どこでもOK」なノウハウの豊富さが、世界各国に売り込む際の強みになっているのではないかと想像します。

 最近、携帯電話の世界では「日本はガラパゴス」とよく言われています。要するにグローバルスタンダードとは別の、独自進化した超高度なシステムを有しているということですが、実は日本の鉄道も、かなり「ガラパゴス」と言えるんじゃないでしょうか*1N700系に限らず、驚異的な分刻みのダイヤで高速列車を運転する「新幹線」というシステムそのものも、まさにその産物でしょう。

 今回の新幹線技術のアメリカへの売り込みは、そういった日本国内で独自に徹底的に磨き上げられた技術が異文化でどう受け入れられるか、そして欧州大メーカーが掲げる「世界標準」とどう戦うかの試金石かもしれません。アメリカではNY地下鉄や各地のLRTなどで比較的多くの日本製車両がすでに活躍し、高い評価を得ています。アメリカに「Shinkansen」が走るのをぜひ期待したいところです。

*1:いい悪いではなくて、独自の超高度なシステムを創り上げたという意味で。なんかこの言葉はネガティブな文脈で使われることが多いみたいなので一応。

中国で列車衝突 3人死亡

 29日午前2時34分(現地時間)、中国・湖南省の京広線郴州駅で旅客列車2本が衝突、双方の機関車と客車合わせて9両(別の報道では16両)が脱線し、3人が死亡、60人以上が負傷。
(参考=新華社英語版)

 京広線は、北京西−広州間約2300kmを結ぶ中国の大動脈。事故が起きた駅は広州鉄路集団の管轄だそうです。
 衝突した列車は、湖南省省都、長沙発深セン行きのK9017次と、貴州省の銅仁発深セン西行きのK9063次。写真で見る限り機関車はどちらもSS8形です。ダイヤ上はK9017次は郴州駅2時38分着、2時41分発、K9063次は2時12分着、2時22分発となっているので、定刻で運行されていればこの2列車が同じ駅構内に入ることはありません。要するに後者はやや遅れていたことになりますが、まあ広大な大陸を駆ける長距離列車ですからこの程度の遅れは大した問題ではないでしょう。
 駅の配線はわかりませんが、中国政府のサイトに図解がありました。事故の形態としては並走する2列車のうち一方がもう一方の側面に突っ込んだという形です。図解によるとK9017次がK9063次の機関車と1両目の客車あたりに突っ込み、その衝撃でK9017次の機関車と客車5両、K9063次の機関車と客車2両が脱線したということのようです。
 報道によると、K9017次は本来停車するはずのこの駅に停まらずに、駅を発車した直後のK9063次に突っ込んだということで、なぜ停まらなかったのかが原因究明の焦点になるでしょう。今や世界最高速の列車を運行し、高速新線ではヨーロッパの高速鉄道と同等のETCS Level2準拠の信号システムを採用する中国ですが、京広線の信号・保安システムはどのような設備なんでしょうか。

 また、K9017次には江沢民・前中国国家主席夫妻の乗った車両が連結されていたとの報道もあります。
(参考=Yahoo!ニュース 産経新聞配信
 江沢民氏が乗る車両ということは、記号「GW」の公務車でしょうか?後部(恐らく最後尾)に連結されていたためけがはなかったとのことですが、なにしろ乗っていたのが前主席ということで、鉄道関係者はこれから大変なことになるでしょうね。

ワシントンDC地下鉄事故、軌道回路に異常発見?

 ワシントンDCで22日(現地時間)発生した地下鉄の追突事故ですが、現場の制御回路の一部に異常が見つかったとCNNが報じています。
(参考=6月25日付CNN)
 記事中では「control circuit」なので直訳すれば制御回路でしょうが、同地下鉄のATO制御・検知は日本のATSのような地上子を使っているはずなので、地上子に異常が見つかったということでしょう。(7/3訂正:地上子ではなく軌道回路の異常でした。)
 事故現場付近の軌道回路6区間のうち1つに異常が発見されたということです。地下鉄当局は25日から全線約3000カ所の点検を始めており、数週間かかる見込みのようです。
(参考=ワシントンメトロオフィシャルサイトのニュース
 また、事故列車の運転士は衝突直前に非常ブレーキを扱ったようだとも報じられています。
(参考=6月25日付CNN*1
 現場はそれほど見通しの悪い区間ではなさそうなので、運転士が急病で意識を失っていたり眠っていたりしない限りは先行列車に気がつきそうに思えます。そこで非常ブレーキボタンを押したにも関わらず停まらなかったということになれば、いよいよブレーキシステムに問題がありそうです。
 ちなみに前の記事で触れた1996年の事故では、ブレーキ時の減速度が低いため、凍結した線路上で停まりきれなかったことが問題となったようです。
 自動運転でトラブルが起きた場合のフェールセーフであるはずの非常ブレーキボタンが有効でなかったとなれば、これは非常に問題になるでしょう。「日本ではこんな事故は起きないだろう」という意見もありますが、1993年には大阪市交通局無人運転新交通システムニュートラムが終点でブレーキが作動せず車止めに衝突する事故が起きています。システムが別物とはいえ、国内の自動運転列車の安全対策状況も知りたいところです。

 しかし今回の事故、衝突直前の運転士の恐怖は想像を絶するものがあります。犠牲者の方々のご冥福をお祈りします。

 事故後、現場の駅間はラッシュ時は単線運転、日中と深夜はバス代行になっているようです。ワシントンメトロのオフィシャルサイトのトップページには、日本なら必ず出るであろうお悔やみの言葉などは特に見られませんが、サイト内には非常に詳しい事故に関するFAQが設けられています。この前南大西洋エールフランス機が行方不明になったときの同社のサイトもこんな感じだったんですが、日本でこんなにあっさりしていたら間違いなくクレームがつくでしょうね。正確な情報を提供することこそ重要だ、ということなんでしょうが、こういうのを見ると欧米との文化の違いを感じます。

*1:「NTSB officials say the train operator appeared to hit the "mushroom" brake before the crash.」mushroomは非常ブレーキボタンのこと。形がマッシュルームみたいなんだそうです。

イスラム教の聖地にメトロが走る!

 サウジアラビアにあるイスラム教の聖地・メッカに都市鉄道を走らせるプロジェクトが進行中だそうです。2010年11月の開業に向け、24日にはフランスのThalesと自動運転や旅客案内システムに関する契約が結ばれたとのこと。
(参考=Railway Gazette International)

 この都市鉄道は「Al Mashaaer Al Mugaddassah Metro」という名称で、「メトロ」とはいうものの全線高架で計画されています。路線はメッカ市の近郊で、ムハンマドが最後の説教を行ったとされるアラファト山(Arafat)と、巡礼の際に巡礼者たちが夜を過ごすというムズダリファ(Muzdalifa)、石を投げる儀式を行う町、ミナ(Mina)*1を結ぶ18.1kmで、各地域にそれぞれ3駅が設けられます。なんとgoogleマップで路線と駅を描いてくれている人がいました。この地図を見ると、車庫(depot)はアラファト山側終点の先に設けられるようです。
 全体の建設とシステムインテグレーションを請け負うのはなんと中国の建設会社、中国鉄建(China Railway Construction Corp.)で、2008年に67億リアル(約1700億円)で契約。ホームドアはウェスチングハウス、電力関係はシーメンスなど各国のメーカーが参加しているようです。車両製造は中国の中国北車長春軌道客車(*開くと音が出るので注意)が担当し、12両編成(8M4T)のアルミ製電車17本を納入する計画です。
 開業時は有人運転、2011年半ばには添乗員付きの自動運転化する予定で、将来は空港などを結ぶ5路線の計画もあるようです。

 メッカといえばイスラム教徒以外は入れない街のはずですが、この鉄道の建設に関わる人もやっぱりムスリムじゃなきゃいけないんでしょうか?たぶんそうなんでしょう。しかし、世界の地下鉄全線完乗を目指す鉄ちゃんはイスラム教に改宗しないとダメってことですね(笑)。知り合いにムスリムの人がいるんですが、開通したら巡礼のついでに写真撮ってきてもらおうかな…

 まあ余談はさておき、やっぱり21世紀はイスラムと中国の時代なんでしょうか。イスラムのほうに関していえば、今年はドバイの地下鉄・モノレールの開通が予定されているほか、アルジェリアで地下鉄、LRT、郊外電車が整備されたり、アラビア半島各地で鉄道建設計画が出てきたりと、鉄道の世界を見る限りその通りのような気がします。

*1:イスラム教の知識は全然ないので聖地の由来とか間違っていたらごめんなさい

ワシントンDCの地下鉄で列車追突、9人死亡

 日本時間23日発生ですが、23日は帰りがAM4:00だったので1日遅れで…

 22日午後5時ごろ(現地時間)、ワシントンDCの地下鉄レッドラインのタコマ(Takoma)駅−フォート・トッテン(Fort Totten)駅間で、停車中の南行列車に後続の列車が衝突、後続列車の運転士を含む9人が死亡。同地下鉄開業以来最悪の事故。
(参考=wikipediaアメリカ版。報道各社のページへのリンクもまとまっていてわかりやすい)


 ワシントンDCの地下鉄は1976年に開業し、現在は5路線171kmを運行。軌間は1435mm、電化方式は第三軌条DC750Vで、ATOによる自動運転を行っており、システム上の最小運転間隔は2分30秒となっています。
 衝突した列車はどちらも6連で、突っ込まれたのが5000系(2001年CAF製)、突っ込んだのは1000系(1976年Rohr製)です。外観デザインはほとんど変わりないように見えますが、行先表示機が1000系はマグサイン、5000系はLEDですね。
 自動運転、保安システム完備の路線での追突事故ということで、まず疑われるのはシステムの故障か欠陥です。事故列車は自動運転中だったとのことですが、たとえ事故列車が手動運転モードだったとしても保安システムが作動しなかったことになりますから、車両を含めたシステムに疑いの目が向くのは当然でしょう。


 特に、追突した側の1000系については、2006年の時点でNTSB(米国家運輸安全委員会)が早期に引退させるよう求めていたことがクローズアップされています。
 この勧告は、2004年に駅で停車中の列車に後退してきた手動運転の非営業列車(1000系)が衝突、20人が負傷した事故の調査結果に基づいて出されたものです。事故原因は車両が勝手に後退していることに運転士が眠気で気づかなかったことで、NTSBはこのような場合でも自動でブレーキが作動するシステムを装備するよう求めると同時に、1000系の車体強度に問題があるとして、早期の引退か強度アップの対策を採ることを要求しています。
(参考=06年3月24日付ワシントンポスト)
 また、飛行機のブラックボックスに相当する記録装置を装備することも同時に求められていますが、結局のところ車両の転動を防ぐシステムを設置する以外は勧告に従っていないようです。
 ちなみに1000系は1990年代半ばにインバータ制御への改造が行われており、地下鉄当局は2015年度以降に引退させる計画です。報道では「最も古い形式だった」ということが強調されていますが、NTSBは古さより安全上の不備(現代の水準に達していない)を問題にしていると思われます。

 これ以外にも、1996年1月にはレッドラインの終点・Shady Grove駅で列車がオーバーランし、停車していた他の列車に追突する事故が起きています(事故車両は3000系、ブレダ製)。事故時は吹雪で線路が凍結していたため、ブレーキ制御が追いつかなかったことが原因とされています。


 今回の事故列車のうち2両はブレーキの定期検査が2カ月遅れていたという報道もあり、いずれにせよワシントンDCの地下鉄の自動運転システムはブレーキに何らかの問題がある可能性がありそうだ、とは言えそうです。
(参考=ワシントンDCメトロのオフィシャルサイト6月23日付ワシントンポストメリーランド大学の院生のブログ←詳しい)

ブリュッセルのLRV、バンクーバー五輪でデモ運転

 6月10日発表ですが、ちょっと面白いのでご紹介。
 ブリュッセルで市電を運行するSTIBとボンバルディアは、2010年のバンクーバー冬季オリンピックパラリンピックに合わせ、現在運行中のLRV2編成をバンクーバー市内に持ち込み、1月21日〜3月21日の間「Olympic Line」として運転を行う予定。
(参考=ボンバルディアのプレスリリース

 要はボンバルディアブリュッセル市ご自慢の最新型LRVを、世界の注目を集める五輪期間中のバンクーバーで披露するぜ、ということですが、別に見せびらかしに行くわけではなく、バンクーバー市の路面電車復活プロジェクトのデモンストレーションが狙いです。
 持ち込む車両は、ボンバルディアのLRVシリーズ「FLEXITY」のうち、「FLEXITY Outlook」と呼ばれる、左右独立回転車輪を使用した100%低床車。欧州各国の多数の都市をはじめ、オーストラリアでも活躍していますが、ブリュッセルには7車体連接車が19編成、5車体連接車が151編成導入されることになっており、現在68編成が運行中だそうです。バンクーバーにどちらを持っていくのかは特に記述がありません。
 LRVを走らせる線路は、現在同市内でボランティアによる古典電車の運転が行われている「Downtown Historic Railway」の路線約1.8kmを、市などの出資によりLRV走行に対応できるようアップグレードして使用。この区間は将来の路面電車構想の路線の一部となっており、同区間で最新型LRVを実際に走らせ、利用してもらうことによって、路面電車プロジェクトへの理解を深めてもらおうという思惑のようです。

 海の向こうから車両を持ってきてデモンストレーションを行うという発想もなかなか大胆ですが(まあ、ボンバルディアの本社はカナダですが)、五輪に合わせて新しく作っちまえ!というのではなく、まずは既存の設備を使って試してみよう、というところにバンクーバー市当局のしたたかさというか合理性を感じます。
 それにしても、北米ではオバマ政権の高速鉄道プロジェクトをはじめ、鉄道復権の兆しがいろいろと出てきていますね。「グリーン・ニューディール」は鉄道にとっては強力な追い風でしょう。

(参考=バンクーバーの路面電車計画オフィシャルサイトOlympic Lineの紹介Downtown Historic Railway

イギリスの日立製高速電車が試運転、近く営業運転開始

 日立がイギリス向けに製造した高速電車Class395(愛称「ジャヴェリン(Javelin、投げ槍の意味)」が18日、関係者を乗せて試運転。乗客を乗せての運転は初。
(参考=BBCInternational Railway Journal

 Class395は、英仏海峡トンネルとロンドンを結ぶ高速新線「High-Speed 1」を経由し、イギリス南部ケント州の各地とロンドン・セントパンクラス駅を結ぶ高速近郊列車用として導入された電車で、交流25Kv・50Hzの架線集電と直流750Vの第3軌条集電に対応し、営業最高速度は225km/h。「ユーロスター」を除き、イギリスの列車としては最速となります。1両の長さは中間車が20m、先頭車が20.65mで日本の標準的な電車とほぼ同じ。基本編成は4M2T(中間4両が電動車)の6両編成で、2編成を併結しての運転も可能です。全29編成が導入される予定で、既に18編成はイギリスに搬入されており、残りの11編成は今月11日に日本から輸出され、8月には現地に到着するようです。
 運行会社はイングランド南西部に路線網を持つSoutheastern(参考=Southeasternオフィシャルサイト)。一部報道では運行会社が車両を購入したというような表現が見られましたが、車両の所有はイギリスの大手銀行、HSBC系列のHSBC Railで、Southeasternがリースしている形です。
 今月29日から「Preview service」として一部区間での運転を始め、12月13日のダイヤ改正から本格的な営業運転を開始する予定になっています。在来線経由で84分かかるセントパンクラス−アッシュフォード(ケント州の都市)間の所要時間は半分以上短縮され、37分で結ばれます。Preview serviceはセントパンクラス−アッシュフォード間が1日3往復、途中のエブスフリート(Ebbsfleet)までが18往復半設定されています。時刻表と運賃表はこちら。
 この日、試運転に同乗した運輸大臣アドニス卿(Lord Adnis)は「今日はイギリスの乗客と鉄道にとって偉大な日だ」と述べたとのことで、イギリス国内での期待の高さが伺えます。日本製高速鉄道車両の初のヨーロッパ進出でもあり、日本の鉄道ファンとしても嬉しいかぎりです。
 また、この車両は日本製であること以外に、「高速鉄道車両」といってもいわゆる長距離特急向けではないところも特色です。最近ドイツで高速新線経由、最高速度200km/hのRE(Regional Express)が運転されていますが、最初から近郊輸送を主眼において造られた高速鉄道車両は珍しい部類に入るでしょう(E4系あたりは通勤車両とも考えられるが)。海外にも「新幹線通勤」は広まっていくのでしょうか。
 29日以降にイギリスに行かれる方はぜひ試乗を!私も乗ってみたいです。